野矢さんが提出する次の課題問題を考えてみよう。
問5 次の文章を読んで問に答えよ。 「ディズニーランドが不況にも強い最大の理由は、それが「カルト的ビジネス」の特徴を持っているからです。普通の人が普通の遊園地に行ったならば、一つの乗り物には一回しか乗らないでしょうが、ディズニー・ファンは細かいところにも徹底的にこだわって、乗り物の横に現れる動物をすべて覚えるまで乗り続けたりします。ディズニーランドの方もマニアに応えるための仕掛けを用意していて、隠れミッキーをあちこちにちりばめたりしています。たとえば、ジープのタイヤ跡がミッキーマウスの顔になっていたりするわけです。 1 こういう状況を作り上げてしまえば、そう簡単にデフレに巻き込まれません。 2 他に代わるものがないからです。 3 ディズニー・マニアは、ディズニー以外のものでは満たされません。 4 「ディズニー・キング」でなければならず、「ジャングル大帝」ではだめなのです。 5 このような競争相手が存在しない商売は、デフレ時代にも価格を下げずにすむという強いポジションが保てます。だから 6 ディズニーランドは、一般の遊園地より料金が割高でも超満員になっているわけです。」 (1)1~6の接続構造を記号と番号を用いて図示せよ。 (2)下線部の「こういう状況」の内容を述べよ。 まず、解答を離れて、この問題文の印象を語ると、ここで主張されている事柄は非常に論理が明確で説得力のある主張のように感じる。なるほどそういう見方もあるのかと納得させられる人が多いのではないだろうか。そのように説得力のある文章だからこそ、論理トレーニングとしてふさわしい問題になるのではないかと思う。 非常に明快な論理を感じる文章であるから、その論理を解析して、それがなぜわかりやすく説得力があるかというのをつかむことができるのだろうと思う。かつて、本多勝一さんの『日本語の作文技術』を読んだときに、本多さんが、国語教育においては、指示代名詞の解釈を細かくやったり、辞書をたくさん引かなければ意味が受け取れないような文章ではなく、読めばすぐに意味が分かるようなわかりやすい文章を題材にするべきだというようなことを語っていた。そして、それがなぜわかりやすいかということをこそ国語で教えるべきだろうと問題提起をしていた。全くその通りだと僕も思ったもので、論理を教えるときも、よくよく考えなければそれが正しいことが分からないような難しいものをいきなり教えるのではなく、読めばなるほどとすぐ納得がいくようなものを初級段階の題材にすべきだろうと思う。 さて、この問題はそのように優れた題材だとは思うが、これを解析するとなると必ずしも易しくはない。わかりやすい文章がなぜわかりやすいかということも、それを教えることが難しいので国語教育では取り上げられていないという面もある。難しい文章の、指示代名詞が何を指すかということなどは、知識として教えるという教える立場から考えれば、生徒は分からなくて教員が知っていることになるので、教える方としては教えやすい題材になるだろう。だが、そういう教えやすい題材ばかり教えるから、結果的に教育の成果が上がらなくなる。仮説実験授業を提唱した板倉聖宣さんのように「教えるに値するものは何か」という発想で題材を探すべきだろう。 前置きが長くなったが、問題の解析に進むことにしよう。まずは1~6までの部分的な接続構造を取り出してみる。そのためにはどの接続詞が使われているかを見るといい。この接続詞の使い方が適切であれば、その論理構造は接続詞から推定することができる。以下のように取り出せるだろう。 1 ← 2(「からです」が根拠を示していると判断) 2 = 3(接続詞はないが、2とほとんど同じ内容が語られていると判断) 3 「たとえば」 4(接続詞はないが内容的なつながりと具体的なものの提出で判断) 4 + 5(接続詞はないが、内容的に違うことを語っていると判断) 5 → 6(「だから」という接続詞で論理的な帰結を導いていると判断) これで、部分的な前後の論理関係は解析できたが、問題はこれが全体の主張の中でどのように構造としてつながりあっているかを判断することが難しいことだ。そのためには、この1~6までの主張で、いったい何が言いたいのかというその主題をつかまなければならない。この主張によって説得されることは何なのか。それは二つある。ディズニーランドでは、1の「デフレに巻き込まれない」ということと、6の「料金が割高でも超満員になっている」ということだ。このどちらが本質的に重要な主張になっているだろうか。 それは、1~6までの文章の前の主張と併せて、問題文全体の主張を考えると、ディズニーランドの「カルト的ビジネス」が不況に強いということが本当の主題であるように感じる。「カルト的」であるからこそ、それがどんな価格がついていようと、他で満足できない客がそれを求めるので、多少高い価格でも客が離れないのだという主張に説得力を感じる。 これが全体の主題であるなら、1~6においても1の主張の「デフレに巻き込まれない」ということを中心に、1~6までがまとまっているのではないかと考えられる。この構造を大きくつかんで表現すると 1 ← (2~6) ということになるだろう。(2~6)の構造については、3の具体例としての「たとえば」の4は、3との結びつきがもっとも強いと考えられる。したがって、 2=(3たとえば4) のような構造になるだろう。これと(5→6)の構造とが一緒になって1の「デフレに巻き込まれない」という主張の根拠が語られていると僕は判断してみた。このとき、6の帰結は、一般論としての5から中心的に導かれるものの、具体的にディズニーランドに競争相手が存在しないことは、その前の「他に代わるものがない」という指摘によってもたらされるので、この全体から6が論理的に帰結されると考えられる。つまり 1←((2=(3たとえば4)+5)→6)) という論理構造になっているのではないかと考えた。ディズニーランドがデフレに巻き込まれない、すなわち、入園料の価格などを下げて客の増加を図るという方向に行かなくてすむのは、他に代わるものがないため、高い価格でもディズニーランドでなければ満足しないという客がいて、その客が離れることがないからだということに納得できる。 下線部の「こういう状況」というのは、「カルト的ビジネス」の状況を語っているものと思われる。だから、「カルト的ビジネス」の状況を具体的に述べることでこの解答になるのではないかと思う。 「カルト的ビジネス」の特徴は、その客がマニア的で、「他に代わるものがない」「他では満足しない」ということが基本にあり、その要求に応えることでビジネスが成り立っているものだと考えられる。このようなことをまとめると、解答としては次のようなものになるだろうか。 <解答例> 「ディズニー・ファンのために、細かいところにこだわって応えるような仕掛けを随所に作っておき、そのマニアックな要求に応えることで、何回でもディズニーランドを訪れたいと思わせるような状況」 この問題のように、非常に説得力のある文章は、その説得力故にこの主張に賛成したいと思う共感が生まれてくる。この共感は、内田さんに感じるような、同じ感情を抱いている好き嫌いの感情から生じるものとはちょっと違うものを感じる。 この問題で主張されているような、ディズニーランドの繁栄に対する評価と解釈は、おそらく客観的に正しいだろうという思いが生まれてくるような共感だ。これが客観的に正しいだろうと思われるのは、この「法則」を応用して、何かマニアックな関心を抱くような対象を、大衆的に喚起することに成功すれば、同じように不況に強い商売がそこで実現するのではないかという、実験の再現性が高い確率で期待できるような感じがする、そういう共感を感じる。これは、100%確実に未来を予言できる科学に対する信頼に近い共感と言えるだろうか。ディズニーランドの繁栄の解釈は科学ではないから、100%それが再現されるとは限らないが、商売を考える人には十分参考になる思考ではないかと思う。 この、説得力を感じるというのは、論理的な帰結というよりは、その文章を読んだときの第一印象であることが多い。一種の勘のようなものだ。その勘でいうと、全く対立する次の二つの主張に対して、どちらの方に説得力を感じるかということはおもしろい問題だと思う。 「一億総健忘症?」 「石破大臣は続投せよ!」 この両方の主張において、「雫石事故」というものの報道の評価が全く違っているのを感じる。もちろん、事件そのものに対する評価も全く違っているだろうと思う。一方では自衛隊を強く批判する立場が強調され、他方では、自衛隊擁護ともとれるような主張になっている。 僕の直感的な好み、つまり勘で捉えられる共感としては、浅井久仁臣さんの「一億総健忘症?」の方に共感する。だが、論理的にはどちらに説得力があるかはまだ判断できない。その判断をするための材料として、まだ知らないことが多いのを感じるからだ。論理的なつながりと事実がどうだったかということを捉えるには、「雫石事故」というものをもっとよく知らなければならない。 共感によって、論理の目が曇るような先入観にとらわれる危険性はあるが、そのような共感があることによって、そのことを深く考え始めるきっかけをつかむこともできる。全く正反対の対立する主張を見かけたとき、どちらにより説得力があるかということを論理的に判断してみようというのは、論理トレーニングのいい応用問題になるのではないかと思う。材料を集めたら是非考えてみたいものだと思う。
by ksyuumei
| 2008-02-24 10:35
| 論理
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