瀬戸さんが「母親と保育所とおむつ」で主張していることを出来るだけ正確に読みとるように努力してみようと思う。これは意味を読みとると言うことだ。意味というのは、同じ形式であっても内容が違うと言うことがあるので、それを正確に読みとるのは難しい。表現の持つ関係性を読みとり、表現されたものから、瀬戸さんの認識にたどり着き、その認識を生んだ客観的存在にたどり着くという読み方をしたいと思う。
そのために、瀬戸さんの表現を二つのものに分けて受け取っていきたいと思う。一つは瀬戸さんの主観に生まれた判断を語った表現で、もう一つは瀬戸さんが捉えた客観的対象を表現したものだ。判断を語った表現から、その判断をもたらした根拠である客観的対象を語った表現を見つけ出し、その論理的関係を考えることで瀬戸さんが書いた文章の意味を正確に読みとりたいと思う。 ただ、三浦つとむさんも語るように、対象の全ての面を認識出来るわけでなく、認識したことの全てを表現出来るわけではないので、そこにはいつもずれが生じる可能性がある。このずれによって誤読する可能性が常にある。瀬戸さんが思ってもいなかったことを、僕が想像で補って深読みすることもあるだろう。もしそのようなところがあったら指摘してもらえるとありがたい。出来るだけ表現された言葉からのみ意味を読みとるように努力したいと思うが、人間には自明の前提となっている先入観もあるので、それが影響して誤読することもあるだろうと思う。 さて最初の判断の文章を探すと次のものが見つかる。 「これは有り体に言えば「女よ家に帰れ」と言うものです。」 「これ」という代名詞で指示しているのは、この判断の前に書かれている 「この分野における本プロジェクトチーム内の議論の根底にある考え方は、 近代憲法が立脚する「個人主義」が戦後のわが国においては正確に理解されず、 「利己主義」に変質させられた結果、 家族や共同体の破壊につながってしまったのではないか、ということへの懸念である。 権利が義務を伴い、自由が責任を伴うことは自明の理であり、 われわれとしては、家族・共同体における責務を明確にする方向で、 新憲法における規定ぶりを考えていくべきではないか。 同時に、科学技術の進歩、少子化・高齢化の進展等の新たな状況に対応した、 「新しい人権」についても、積極的に取り込んでいく必要があろう。」 という文章を指す。瀬戸さんは、この文章の意味を「女よ家に帰れ」というものだと読みとった。しかし上の文章には、直接「女よ家に帰れ」という表現は使われていない。だから、これは書かれていないことを、関係性をたどって意味を読みとったと考えなければならない。どのような読みとり方をしたのか、想像は出来るが、瀬戸さんのエントリーでは直接書かれてはいないので、その考察はまた改めてすることにして、その根拠となりそうな事実の記述を拾い出しておくことをまずはしておこう。 まずは上の文章からは ・「個人主義」が「利己主義」として捉えられた間違った理解の存在があるという主張が存在する。 ・その間違った理解の結果として家族や共同体が破壊されたという懸念が存在する。 ・新憲法における規定を変えていくべきだという主張が存在する。 というようなものを拾い出せるのではないかと思う。ただ、これらの記述は抽象的な言い方になっているので、これだけから「女よ家に帰れ」という意味は読みとれない。「個人主義」や「利己主義」の中身を具体的に考えれば、そこから「女よ家に帰れ」という意味につなげる読み方は出来ると思う。しかし、その読み方は、この文章を見る限りでは僕の読み方であって、瀬戸さんの読み方だということは言えない。瀬戸さんがどう読んだかを考えるには、もう少し他の情報を合わせて考える必要があるだろう。 瀬戸さんが引用している下村発言の中には、「女よ家に帰れ」という意味を読みとれる表現が直接に現れている。次の部分だ。 「(母親は)無理に働かなくても、家庭でしっかり子育てをやってもらえるようにシフトしていくことが望ましい」 表現としては穏やかだが、意味としては「女よ家に帰れ」というものとして読みとれるだろう。瀬戸さんがこの文章を引用して、上の文章と並べて考察していることから考えると、ここに関連性を見ていると受け取ることが出来るのではないだろうか。この関連性が、上の文章では直接表現されていなかった「女よ家に帰れ」という意味を読みとる根拠になったのではないかと、僕には思えるのだがどうだろうか。 ここまではこのエントリーに書かれた文章だけから考えられることだが、瀬戸さんは「青い鳥コンプレックス」というエントリーにもリンクを張って参照出来るようにしている。これを見ると、「女よ家に帰れ」という意味の読みとりの過程がよりハッキリしてくる。 ここでは瀬戸さんは、上の文章から来る印象を 「今、社会的な問題になっている 少子化、 あるいは子どもたちの犯罪。 それらの原因を突き進めるなら、 「女が社会に進出したこと」が悪い。 有り体に言えば、そういうことです。」 と語っている。上の文章の主張を「「女が社会に進出したこと」が悪い」という主張だと意味を読みとっている。この読みとりがあれば、それが悪いことなら改めなければいけないという論理の展開で「女よ家に帰れ」という主張が出てくることが理解出来る。 瀬戸さんのこの判断の根拠は、自民党の保守層の考えの中に「「女が社会に進出したこと」が悪い」というものが存在するというものがあると判断しているものがあると思われる。この前提を置いて上の文章や下村発言を受け取れば、瀬戸さんと同じような判断にたどり着くことは理解出来るのではないかと思う。この前提を共有すれば、その結論を論理的判断として共有することは可能だと思われる。 問題は、この前提となる判断は、上の文章に直接は書かれていないと言うことだ。下村発言にもそれは見あたらない。どこかでそう言っているのかも知れないが、少なくとも発表された文章にはそれは見付からないのではないかと思う。 それはある意味では当然とも言えるもので、「「女が社会に進出したこと」が悪い」とたとえ思っていたとしても、それをあからさまに表現すれば大きな反発が来ることは十分予想される。だから、他の理由でこのようなものにつながりそうなことを発言するというのは良くあることだろう。 瀬戸さんの文章の意味を理解する上でポイントになるのは、引用された文章だけからは、この前提となる判断が読みとれないと言うところにある。自民党の保守層が「「女が社会に進出したこと」が悪い」と考えているという「事実」は、瀬戸さんが引用した文章から読みとることではなく、その文章を読む以前にすでに理解されていることとして捉えなければならない。そう言う理解があるからこそ、上の文章に関して「女よ家に帰れ」という意味だという読みとりが出来るのだと思う。 瀬戸さんと同じようにこの前提を共有するものにとっては、瀬戸さんの主張はたいへん共感を呼ぶものになるだろう。だが、必ずしもこの前提を共有していない人は、その判断に賛成しないとも言える。これは論理的にはそう考えられるだろう。 僕は論理的な面を細かく考える癖があるので、自明の前提だと思われることでも、何とかその根拠を探し出して書こうとするのでいつも長い表現になってしまう。それでも、自明の前提というのはなかなか本人にはその根拠を見出すのは難しいので、ついそれを前提にした文章を書いてしまう。そうすると、それを自明の前提だと思えない人からは異論が提出されると言うことになる。 瀬戸さんの最初の判断については、僕もほぼ同じ前提を共有していると感じているので、共感を覚えるのだが、それではその前提の根拠を説明しろと言われるとなかなか難しい。分かる人には分かるのだが、というような感じだ。このあたりの感覚のずれが、内田さんを巡る文章の解釈にはありそうな気がする。 瀬戸さんは「青い鳥コンプレックス」というエントリーで、 「少子化の原因や 犯罪の低年齢化を、 間違っても「女性の社会進出」と結びつけてもらいたくはない。」 ということを語っている。これは重要なことではないかと思う。内田さんの主張が、瀬戸さんが否定するような考えの方向へ行きかねないと判断しているように僕には見えるからだ。このあたりに内田さんの文章に対する受け取り方の、僕と瀬戸さんのずれがありそうな気がする。 次回は、内田さんの文章に対する判断の部分と、その判断をもたらした客観的な根拠という前提の部分を、同じようなやり方で考察してみたいと思う。その中に、おそらく僕は違う解釈をする部分があるのではないかと思う。そこが理解のずれになっているのではないかと思う。
by ksyuumei
| 2006-11-14 09:44
| 内田樹
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