青山貞一さんの「北朝鮮の「核保有」で憂慮される課題(2)」という記事に、「北朝鮮問題は劇的に解決を迎える!」という日刊ゲンダイの興味深い記事が転載されている。青山さんは、「以下の日刊ゲンダイの速報は、6カ国協議再開の裏側をえぐっている」と語っており、その見方の一面の正しさを感じているのではないかと思われる。僕が関心を持ったのは、その結末の部分だ。それは次のように語られている。
「米朝の「電撃接近」を予測していた元外務省北東アジア課課長補佐(北朝鮮担当班長)の原田武夫氏がこう言う。 「かつてのニクソン訪中、カーター訪朝の再現は十分考えられます。恐らく、金正日は引退し、その見返りとして米国は“金王朝”の体制を保障、核実験についても不問に付すシナリオではないか。後継者は、長男の金正男です。正男は米国とも中国とも良好な関係を築いているので、米中朝いずれにとっても好都合なのです。その上で、『核開発中止』『原子炉建設』を条件に国交正常化に乗り出す。すでに原子炉は米GE製で、韓国が建設を請け負い、カネは日本に払わせるというシナリオが米朝間でできていても不思議はない。これで北朝鮮危機は一気に解決します」」 この結末は「北朝鮮」にとって十分すぎるくらいの利益をもたらす方向ではないかと感じる。金正日が引退するとしても、イラクのように体制が根こそぎ変えられる恐れがあったことを考えれば、「“金王朝”の体制を保障」するのであればおつりが来るのではないかと思われる。 この結末はまだ現実化していないが、もし現実化するようなら、その時にそれをどう解釈するかという問題が難しくなってくる。この結果は、偶然「北朝鮮」にとって有利なように働いたサプライズなのか。それとも、このような結果を生むべく「北朝鮮」が働きかけた戦略的思考の結果もたらされたものなのか。このような結果は、様々な現実の条件から論理的に導ける予想なのか。それとも幸運にもいくつかの事実が重なった結果として「北朝鮮」に有利に働きそうになっているのか。 このような結末を導く論理の流れというものを探してみたいと思う。その論理の流れが納得出来るものであれば、とりあえずは「北朝鮮」は戦略的思考によって動いている国だということが分かるからだ。訳の分からないことをする、異常な思考をする国家ではなく、論理的な思考をする国だということが分かれば、それは「北朝鮮」を理解するのに役立てることが出来る情報になるのではないかと思う。 「北朝鮮」が戦略的思考をする論理的な判断の下に行為する国なら、核兵器の開発についても、それの開発が論理的に帰結出来るなら開発をやめることはないだろうと思われる。道徳や人類の未来といった、現実には有効でない要因で核兵器の開発に反対してもあまり実効性はないと思われる。核兵器開発の要因となっている事柄が論理的に解決しない限り、それをやめることはないだろうと予測出来る。 また、拉致問題についても、その犯罪がとんでもない凶悪な異常な犯罪だと受け止めると、「北朝鮮」が論理的な国家だったら、それは一部の不心得者の犯罪だという主張が正しくなる可能性がある。しかしそれを、あの時期の情報戦略のスパイ活動としては、論理的に必要だったと考えられれば、それは戦略的に「北朝鮮」が行った行為だと考えることも出来るのではないかと思う。拉致問題は、被害者にとっては憎むべき犯罪以外の何ものでもないと思われるが、それを当時の時代背景に正しく位置づけて、その戦略的意味を理解することは、「北朝鮮」という国の理解とともに拉致問題の解決にとっても重要ではないかと思われる。 さて、今回の「北朝鮮」の6カ国協議への復帰について、日刊ゲンダイでは、 「あれだけ頑なに強硬姿勢を崩さなかった米国があっさり折れ、北朝鮮も核実験から1カ月足らずですんなり6カ国協議への復帰を決めた今回の「合意劇」は、話が出来すぎている。 こうなると、すでに米朝間で「落としどころ」ができていると考えた方が自然だ。ズバリ、米朝は国交を正常化するつもりじゃないのか。」 と報じている。つまり、アメリカの方から妥協を持ちかけたからこそ「北朝鮮」が6カ国協議に復帰したのではないかと推測している。今までの「北朝鮮」の姿勢からして、何らかの利益がない限りでは復帰してこないだろうという論理の流れだと思う。それでは、アメリカが妥協したくなるような要因としては何があるのだろうか。これは、「北朝鮮」の働きかけによって生じた事態なのか、それとも偶然運良く「北朝鮮」の側に風が吹いてきただけのものなのだろうか。その解釈が、「北朝鮮」の行為が戦略的なものなのかどうかという解釈に関わってくるだろう。 アメリカが妥協したくなるというのは、アメリカがの側に苦しい事情があるからだが、それはいくつか指摘することが出来るだろう。日刊ゲンダイでは次のような指摘をしている。 「6カ国協議の再開を強く望んだのは、北朝鮮よりも米国でしょう。11月7日に行われる中間選挙で、ブッシュ共和党は苦戦を強いられている。とくに北朝鮮が核実験を強行したために、ブッシュに対して『外交無策』の批判が噴出。 ブッシュ大統領は、どうしても投票日前に『外交成果』をアピールする必要があった。それより何より、北朝鮮問題は完全に手詰まりになってしまった。経済制裁を実施しても、金正日体制は崩壊しそうにないし、かといって核を保有した北朝鮮を武力攻撃するのはリスクが大きすぎる。米国は袋小路に入り、方針転換を図ったのでしょう」(コリアレポート編集長・辺真一氏) 「核実験を強行したために」批判が出たということは、「北朝鮮」の行為によってアメリカの苦しい事情が生じたとも解釈出来る。神保・宮台両氏のマル激での議論でも、中間選挙をにらんだ時期に核実験をしたことに意味があるという指摘をしていたが、もしその時期の選び方が指摘の通りであるなら、その戦略は見事に当たったといってもいいのではないかと感じる。核実験によって、アメリカは何らかの譲歩をして、「北朝鮮」との外交成果を見せなければならなかったということになるのではないだろうか。 もちろんアメリカは、追い込まれた結果によって妥協したのだということが分かるようには振る舞わないだろう。だから、そのようなことを思わせる事実はマスコミには登場しないに違いない。このような憶測が日刊ゲンダイのような所に出てくる理由はそういうところにあるのだろう。 だが「北朝鮮」にとっては、日本やアメリカの表向きのマスコミがどう報道しようとそれはあまり重要ではないだろう。裏取引であろうとも、大きな利益が引き出せるのならそれは外交成果ということになると思う。大国のアメリカをそこまで追い込んだとしたら、「北朝鮮」の外交手腕というのは、戦略的に非常に水準の高いものであり、まさに論理的水準も高いものだと言えるのではないだろうか。これは果たして論理的な帰結なのか、それとも偶然の産物なのか。 青山さんも、この記事の中で 「もっぱら、DPRKは、そのような米国、ブッシュ政権の足下を見透かしていたとも思える。 今回の6各国協議再開は、まさにハード、ソフトあらゆる手段を行使し、揺さぶりをかけていたDPRKと、中間選挙を間近に控えたブッシュ政権の思惑が一致したところにあるのではないかと思える。」 と書いており、この一連の流れが「北朝鮮」の戦略的な振る舞いによってもたらされたと解釈しているように感じる。また、青山さんは、「北朝鮮」の発言の 「彼は「6カ国協議に米国が参加する条件のもと、米国の一州と変わらない日本が地方代表として協議に参加する必要はない」とし、「米国から会談の結果でも受けていればよいのではないか」と皮肉った。 また「日本は新政権が発足したばかりで国内的にもやるべきことが多いはずだ。6カ国協議の場をしきりにのぞき込まず、自国のことに力を注ぐのがよい」と付け加えた。」 というものに対しても、これだけ日本に対して強硬な姿勢を示すのも、その戦略がうまく行ったことの自信から来るものではないかと感じているようだ。この日本を揶揄するような言い方も、大言壮語をしているだけで、口だけのものだと解釈する人もいるだろうが、僕は、これは戦略の一つではないかという感じもしている。感情的な反応を見せる日本に対する揺さぶりなのではないかと感じる。 「北朝鮮」の核実験が、アメリカに対して妥協をしたくなるようにし向ける結果を生むのか、それとも強行的な姿勢を助長して、下手をすればイラクのように軍事攻撃に至る道を生み出さないか、その判断がどのような戦略から生まれるかはなかなか難しい問題だ。しかし、結果的に軍事攻撃はされず、むしろ「北朝鮮」にとって好都合の方向に向かっているのではないだろうか。 これが戦略的思考の結果であるなら、核兵器を開発したとしても、それを実際に使用するということが戦略的に見てマイナスである間は「北朝鮮」はそれを使用することはないのではないかと思える。そして、現状はおそらくそのような条件を持っているだろう。だから、「北朝鮮」の核兵器開発は、すぐに危険が生じるようなものではないと思う。だがそう言えるのは、「北朝鮮」が戦略的に振る舞っているという仮定が正しいときだ。 一方日本の行為を見ているとあまり戦略的に見えない。それは、相手の出方を予想して動いているように見えないからだ。相手が動いたときにそれに対処してどうするかを、事後的に考えて動いているように見える。マル激の議論では、日本ではそういう対処がうまいという指摘もあったが、いつまでもそういう泥縄式の対応でいけるものなのだろうか。先を見通すということを、もっとよく考えなければならないのではないだろうか。「北朝鮮」の戦略性についてはさらに考えていきたいと思う。
by ksyuumei
| 2006-11-08 10:02
| 論理
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