ひよこさんから「「妨害」という判断は正しいか?」のコメント欄で核兵器の是非の議論について呼びかけられた。これは、極めて論理的な対象ではないかということで呼びかけたようだ。確かに、これが議論の形をなすなら、それは論理的なものになるだろう。
核兵器の存在というのは、すでにそれを持っている国がいくつかあると言うことから確認出来るが、その使用はもしかしたら未来永劫に渡ってないかも知れない。核兵器というのは、持っていることにのみ意味があるので、決して使用しない最終兵器というものかも知れない。核兵器の使用はいつでも可能性の問題であり、現実になっていない未来の想像というものになるので、これは論理を駆使して予想するしかない問題になるだろう。 だがこの議論は非常に難しい。「是非」というものが、道徳的な「善悪」と結びついた「良いか悪いか」という判断になってしまえば、その結論は信念を語るだけのものになってしまう。どのような信念を持とうと、実際の行動に結びつかなければそれは自由なのであるから、信念の問題になれば議論の余地はなくなる。信念の表明をして終わりということだ。それに賛成出来ないときは、見解の相違と言うことで受け止めなければならない。 論理の問題というのは、真偽という問題で最終的な結論が出せなければならない。「善悪」ではなく「真偽」であるということは、「良いか悪いか」ではなく「正しいか正しくないか」と言うことで議論しなければならない。「善悪」の議論は信条の表明になり、どんな結論が出ようとも、それは尊重されなければならない。しかし、「真偽」の議論は、どちらか一方は「真」であり他方は「偽」であると判断されたり、視点が違えばどちらも「真」であると判断されたりする。あるいは、「真偽」の判定は出来ないという結論もあり得る。原理的に出来なかったり、現在の情報だけでは判断出来ないと結論されたりする。 論理的な意味での議論をするには、その準備をいくつかしなければならないと思う。核兵器の是非について論理的に考えるなら、その前提(真理というのは、常にある条件の下での真理であって、条件が違えば真理は誤謬に転化するというのは、三浦つとむさんの貴重な教えだ)がどんなものであるかを確定しなければならない。 個人的な信条や感情を越えた結論を導くためにはどのような前提がふさわしいだろうか。平和の選択というものを、他の選択肢を持たない自明の前提のように考えると、核兵器を持つ「べきではない」というような倫理的な結論が導かれる。しかし、これは現実にはほとんど何の有効性も持たない信条(心情?)の表明なる。もちろん、これに賛成する人が圧倒的多数であれば民主主義の下では有効な力となりうる。だがそういうことはないだろうと予想されるので、現実の有効性は薄いと考えられる。 信条だけでは人々は圧倒的多数が賛成すると言うことはないし、そうであればその信条を現実行動に移す人も少なくなる。この議論には、自明な前提というものは無い。その前提でさえもが選択肢として議論されなければならない問題になる。これは議論の際にかなり難しい問題となるだろう。ある前提の下での「真偽」を考えているときに、いや実は、前提そのものが正しいのかどうかも考えなければならない、というようなことを議論しなければならないから混乱するだろうと思う。 「北朝鮮」の核実験に対して、それがケシカラン行為だという前提で議論をスタートさせれば、その出発点にすでに結論が含まれているような議論になる。また、この核実験をきっかけに、日本が核武装するかという議論が始まろうとしているが、議論をすることがそもそも核武装をするという前提をしていることになるから、議論そのものが駄目だというような考え方もある。これらは、論理的と言うよりもやはり倫理的な方向での考察になっているのではないかと思う。 核兵器の議論は、これを論理的な考察の対象にすることがまず難しい。どのようにすれば、感情や倫理を抜いて、純粋に論理の問題として設定し直すことが出来るだろうか。それは仮言命題としてのとらえ方を常に忘れないようにすることが肝心ではないかと思う。仮言命題は、ある条件の下で、その条件から導かれる結論を問題にする。その導き方の論理性というものを評価の対象にする。倫理面・信条面での評価は、どうしても結論に対する受け取り方で違ってくるが、結論よりも、そこに至る論理の流れの方にこそ注目するという態度が大事だろう。 そういう意味で、論理の流れを考える材料としては、「核兵器の保有」という判断が正しいかどうかに絞って考えることが、何とか論理的な考察の対象になりうるのではないかとも考えられる。そして、その際に判断の材料になるのは、自国の国益のプラス・マイナスの判断の考察から、「核兵器の所有」がプラスになると判断されたとき、保有することが正しいと論理的には考えられると結論しなければならないのではないかと思う。 「北朝鮮」は保有しつつあるのか、すでに保有しているのかは分からないが、核を持つと言うことが、「北朝鮮」自身の国益にとって、「北朝鮮」の立場から考えたときにプラスだと判断されれば、核を持つことは論理的には正しいと判断する。それは、日本の立場から見て、どんなにケシカラン行為だと見えても、論理的にはそれが正しいと判断することにする。あくまでも「北朝鮮」にとって、自国の立場から見た国益の計算から結論を出すと言うことが論理的な議論の方向になるだろうと思う。 同じように考えれば、日本が核武装すると言うことの「是非」も、日本の国益の立場から見て、それがプラスの結果として計算出来るなら、論理的には核武装することが「正しい」と判断する。マイナスの計算になれば、核武装することは「正しくない」と言うことが論理的な結論になる。 これは、議論の前提としては、どんな場合に核兵器を持つことが正しくなるかという観点で議論を進めるということになるだろう。核兵器を持つことは、どんな場合であっても正しくないという前提があれば、この議論は全く無駄なものになる。だから、可能性としては、核兵器を持つことが正しい場合もあるという前提の下での考察だと言うことになる。 その正しい場合は、国益という観点から見てプラスになると計算出来ると言うことだ。だから、判断としては、プラスだという計算が正しいかどうかと言う判断を考察すると言うことにもなる。これは、はっきり言って素人には難しい。論理的な流れはこのようなものになるだろうが、現実にいろいろな情報を集めて、現実の条件の下での国益計算をするのは、専門家でなければ出来ないだろう。 素人では知り得ない情報があって、国益計算の際にそれが抜け落ちる可能性がある。だから素人に残された道は、実際の具体的な考察ではなく、想像出来る限りでのあらゆる可能性を考えると言うことになるだろう。その想像からもれる出来事が現実に存在すれば、その考察は失敗と言うことになるだろうが、素人が現実を考えるには、論理的にはそのような道しかないだろう。 神保哲生・宮台真司両氏のマル激トークオンデマンドでは、武貞秀士氏(防衛研究所主任研究官)をゲストに招いて、「金正日は核で何をしようとしているのか」という議論をしている。これは、専門家の立場からの論理的な考察になっている。素人がこの問題を考える際に参考になるだろうと思う。 ここでは、金正日の戦略というものをかなり高く評価している。「北朝鮮」が核を持つという選択は、ケシカラン行為をしているのではなく、かなりの細かい国益計算から、それがプラスになるという判断がもたらされることから導かれていると評価しているようだ。これは、論理的に正しいと感じられるような判断になっている。 また日本の核武装に関しては、「日本が通常戦力で攻撃をすれば、北朝鮮は無事ではないと言える能力をつけることは可能だし、その議論の方が合理的」と武貞氏は語っているようだ。つまり、日本の国益計算では、核を持たない方がプラスだという判断をしている。これも論理的に正当な判断だと感じる。 核兵器の是非については、このマル激での討論をヒントに、自国の利益にとってプラスかどうかという観点で評価すると言うことを、論理的な正しさの評価にして考えるという前提を立てたいと思う。この前提の下で、論理的な結論を提出し、その論理の流れが正しいかどうかを考えたいと思う。マル激の討論をもう何回か聞いて、その論理の流れを読みとってみようと思う。
by ksyuumei
| 2006-10-26 09:51
| 論理
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