哲学の一部でもある論理学の応用として現実の出来事を整合的に理解する努力をしてみたいと思う。それは、論理的に可能な命題を考えられる限り探し出して、現実をその可能な場合のどれかだと考えるのがまず第一歩だ。それを決定するのは難しいと思うが、もっとも可能性が高いものが現実化したのだと受け止めることで、その事実を整合的に論理的に理解する道を見つけたいと思う。
まずは大前提として 1 「北朝鮮」は合理的に説明のつく行動をしている。 というものを置きたいと思う。この前提がないようなら、論理的に考えることも無意味になってしまうからだ。人間の行動は、理解しがたいと言うものがあるかも知れないが、まったく理屈に合わないメチャクチャなものというのはないという前提だ。たとえその理屈が間違えていても、行動する人間は、何らかの理屈に従って行動するというのを大前提に置いて考えたいと思う。それが間違えている理屈なら、その間違いも整合的に理解出来るという前提を取る。 さてミサイル発射というのは、夢や幻ではなく、そのこと自体は紛れもない事実だ。この事実について僕がもっとも関心を抱き、理解したいと思うのは、なぜそのような行動になったかという、「北朝鮮」の側の意図に関するものだ。その目的というのは何だろうか。それはこういうものだというものが、もっとも可能性の高いものとして論理的に求めることが出来るだろうか。 まずは、人間が行動の目的とするもので、何らかの「利益」というものを目指すという一般論から考えてみたいと思う。次のような命題を考えてみよう。 ・ ミサイルを発射することで「北朝鮮」には何らかの利益がある。 ・ ミサイルを発射することは「北朝鮮」には何の利益もない。 むしろ損害がある。 ・ ミサイルを発射することは「北朝鮮」には利害は何もない。 利害をまったく考えずにミサイルを発射したと言うこと。 形式論理的にはこの3つの命題の可能性があるのではないかと思う。さて、整合的にものを考える人間なら、利益になるような行動をすると考えるのがもっとも可能性が高いのではないか。自分の損害になることや、利害などまったく考えないで行動するように見えることがあるかも知れないが、それは、そのように行動する人間が間違った考えを持っているか、よく考えていないかどちらかであることを示しているのではないかと思う。 この時点で、「北朝鮮」の側(金正日ということだが)は、間違っているか頭が悪いかどちらかだ、と結論を出すことも出来るが、そのような結論を性急に出すのではなく、あくまでも合理的な理解をするために、「北朝鮮」の側は整合的に行動しているという前提で考えたい。だから、この命題についても、何らかの利益を得るためにミサイルを発射したというものをもっとも可能性の高いものとして考えたいと思う。 それでは、その「何らかの利益」というものの具体像をこれから求めたいのだが、これは素人考えでいろいろ想像することになるので、あらゆる可能性と言うところまでは届かず、いろいろと漏れがあることと思う。 まずは単純に分かることとして、ミサイル発射という行為が直接もたらす効果をねらった目的が考えられる。それは一種の脅しとも取れる行為だが、脅しによって得られる利益というものがあるだろうということだ。これは、利益の中身にはあまり関わりがない。行為そのものが利益に直結するという単純な理解だ。一つの解釈は、「北朝鮮ミサイル:発射狙いは 中山・元内閣官房参与が講演--水俣 /熊本」というニュース記事の中にあった、中山・元内閣官房参与の次の言葉だろう。 「北朝鮮ミサイル発射問題について「米国の経済制裁に対し、マカオの銀行の取引再開か、別の援助を引き出したいためにやったこと。悪い事をやめる代わりに何か下さいというのが北朝鮮のやり方」と指摘。」 中山・元内閣官房参与が「北朝鮮のやり方」と語るような戦術は、田中宇さんも「北朝鮮:金正日のしたたかな外交 2000年6月26日」というレポートで、「ゆすりたかり外交」と呼んでいる。しかし、田中さんのレポートでは、このやり方は、単純な脅しではなくかなり整合性を持った巧妙な戦術として語られている。 そこで語られているのは、「1994年、アメリカが北朝鮮に対し「核兵器開発を中止したら、もっと良い原発をつくってやる」と持ちかけ、日本と韓国にも金を出させ、工事を始めた」原発工事現場でのストライキという戦術だった。 「北朝鮮」は、独裁国家であり、国家に反逆するようなストライキという行為は普通では考えられないと言う。それが、さして待遇が悪いわけでもない原発現場(これは、アメリカ・韓国・日本が金を出しているので、普通の「北朝鮮」労働者よりも給料がいい仕事だったそうだ)で、ストライキが行われると言うところに、田中さんは「北朝鮮」のしたたかさ、つまり頭の良さを見ている。 労働者が待遇に不満を持つのは、田中さんは、「北朝鮮」当局が給料をピンハネしていたからだろうと予測している。そして、その不満を当局ではなく、給料を出している外国へ向けているところがしたたかなところだ。このストライキによって工事は滞り遅れていく。だがそれは「北朝鮮」当局にとっては望むところでもある。田中さんは、「これは工事を遅らせられる上、北朝鮮政府の収入も増えるので、まさに一石二鳥の戦法だろう」と評価している。望まない工事がなかなか終わらない上、ストライキが成功して給料が上がればピンハネの分も多くなると言うわけだ。 このことの道徳的評価は別にして、勝ち負けという観点から言えば、この戦術は確かに頭のいい戦術だと思う。ストライキという戦術であれば、建前上は民主国家である資本主義国家は、それを頭から弾圧することに賛成は出来ないからだ。つまり、見かけは「悪いこと」ではなくなる。この戦術の評価として田中さんは、次のようなまとめもしている。 「だが北朝鮮は、米国・ソ連・中国・日本という強国に取り囲まれて生き延びてきただけあって、外交手腕にたけていた。アメリカが自国を援助漬けにしようというなら、その援助を骨までしゃぶってやろうという作戦に出た。北朝鮮は、原発が完成するまでの間、石油を無料で受け取れる約束をアメリカから引き出した上で、原発の建設を進ませないようにする妨害工作を始めた。」 このような戦術の敵にされている側は、そのずるいやり方に怒りを覚えるだろうが、単に相手を「悪い」と非難するだけでは負けてしまうだろう。相手の頭の良さを理解した上で、それに対抗するだけの頭の良さで戦術を立てなければならないのではないかと思う。そういう意味では、「悪い事をやめる代わりに何か下さい」という受け止め方をしていたのでは、「北朝鮮」の本当の意図を見誤るのではないかと感じる。 そこには、単純な現象の直結という判断では理解することの出来ない、「風が吹けば桶屋が儲かる」という因果関係に通じるような、複雑な意図が隠されていると見た方がいいのではないだろうか。田中さんは、上のレポートを書いた当時の「テポドン試射」に対しても言及しており、これはあまり利益をもたらさなくなったとも判断している。 この戦術は、「これは「核兵器ではなくミサイルを新しい交渉テーマにして、新規の援助を引き出そう」という北朝鮮の作戦だったと思われるが、アメリカはそれに乗らなかった」と語られているように成功しなかったようだ。逆に、これを利用してアメリカは「アメリカ本土を攻撃できる可能性を持った「敵」が現われてくれたことに利用価値を見つけ、日本や韓国、台湾までをミサイル防衛構想の傘下に入れ、資金を拠出させようと考えた」というように、戦術的には「北朝鮮」の負けだとも受け取れるような結果になっている。 おまけに、この戦術によって中国を刺激するという損害も生じた。「この転換をみて慌てたのは中国だった。アメリカのミサイル防衛構想は、北朝鮮だけでなく、中国をも仮想敵としている可能性が大きかったからだ」と田中さんが語るように、「北朝鮮」にとっては自分の側の援助国である大切な中国に損害を与えるという、意図に反する結果も出てしまった。 この経験を元にすると、頭がいいのであれば、単純に脅しただけではかつての失敗を繰り返すと言うことが分かるはずだ。しかし、なぜあえて同じような行為をしてきたのだろうか。単純な理解も可能性としての「事態」の一つだとは思うが、それはかなり低い可能性しか持っていないのではないだろうか。もっと高い可能性のある「事態」がないものか、さらに論理空間の他の要素を求めてみようと思う。 単純な脅しではなく、もっと深い読みがあってミサイルを発射したと考えられるような理由が見つからないものか、よく考えてみたい。
by ksyuumei
| 2006-07-13 10:42
| 雑文
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