昨日のエントリーへのmechaさんの書き込みで、村上氏の違法性ということについて一定の理解が得られたような気がする。確かに違法性というものがあったようだ。だから法的に裁かれるというのは仕方のないことになるのだろう。しかしまだ釈然としない思いが残る。この釈然としない思いをちょっと分析してみようと思う。
以前にライブドア問題の時にも、ライブドアの粉飾決算に関しては、その違法性を早くから指摘していた人がいたことを知ることが出来た。専門家の目から見れば違法性が明らかであっても、専門的な知識のない目からは、それがなかなか分からないということも感じたものだ。その一方で、本当に問題だと思うことは違法性として指摘されていなかったということも感じた。 それはマル激で神保哲生氏が指摘していたことだが、ライブドアの株分割の問題だった。株分割の本来の趣旨は、あまりにも一株の値段が高くなりすぎた株は、一般の投資家がそれを求めにくくなるので、分割して一株の値段を下げて、投資活動を活発化させるというものだったと僕は理解した。 しかし、ライブドアはそのような一般常識を破るような、1万分割というような株の分割をして、株の分割によって株の値段を上げて儲けるという手法を編み出していた。株を分割したからといって、その企業の価値が飛躍的に上がるということはどう考えても論理的な整合性がない。しかし現実には、株の分割をすることでライブドアの株価は分割した値段を上回り、企業資産を増やしてきていた。 これは、現実にはない幻想的な価値に人々が群がることによって、多くの人が買い求めたということだけから値段が上がったに過ぎないような現象に僕には見える。多くの人が買い求めたというのは、ライブドアの株価が上がると予想したからだと思う。そういう意味では、競馬の勝ち馬の予想のようなもので、一つのギャンブルとしてライブドアの株が買われたように見える。 このギャンブルの幻想を支えていたのが粉飾決算という見せかけの業績だったことを思うと、その違法性の重要さがまた感じられる。だからライブドアが粉飾決算で裁かれるというのは正しい方向だとは思う。しかし、株分割の方は、その時点では違法性がなかったということで裁かれることはない。むしろ今後そのようなことが出来ないように、ライブドアの事件をきっかけに法律が整備されたという結果になったのだと思う。 株分割が許されるというふうになったときに、常識を越えるような1万分割をするなどという発想は、思いついても現実にはしないというふうに思われていたのではないだろうか。それは暗黙のルールとしてのモラルでありマナーであると理解されていたのではないだろうか。しかし盲点をついて常識を破る人間が出てきてしまった。 このときに、ルールをより厳しくして違反者を取り締まるという対処と、モラルやマナーの水準を上げて、個々のプレイヤーの自覚にゆだねて対処するという二つの方法があるように感じる。宮台氏によれば、ルールを徹底的に厳しくして、ルールで許された範囲では何をやっても自由だが、ルールのハードルをあげるのがアメリカ的なやり方らしい。ヨーロッパ的なやり方は、個々のプレーヤーの水準を上げることで、モラルやマナーの水準の高さでプラットホームを守るというやり方らしい。 果たして日本はどちらの道を歩むのだろうか。共同体意識の強い日本では、厳しいルールの下に行動するというのは難しい感じもする。血も涙もないような感じを受けてしまうだろう。しかし、日本の共同体意識にはパブリックな感覚が薄い。仲間内の助け合いや共通感覚はあるが、公共的なモラルの意識が薄いように感じる。そう言う社会では、モラルやマナーの水準を上げるのが困難だ。いずれの道も日本にとっては困難だ。これからどのような道を歩もうとしているのだろうか。 村上氏の問題も、インサイダー取引という違法性に関しては、法律に照らして合理的な判断が下されるだろうと思う。しかし、違法性が必ずしも証明出来ないが、常識を越えたモラル違反やマナー違反はなかったのだろうか。それに対して、今後はどのような対処をするかということは考えられているのだろうか。 アメリカなどでは、会社のことなど少しも考慮せず、それを儲けの対象にして売買するような所をはげたかファンドなどと呼んで非難していたようにも思う。それは、再建が難しい会社を二束三文の値段で買い上げて、最後の資産を売りさばくことによって、会社を解体して儲けるところからそう呼ばれているように感じた。 つぶれる寸前の会社を解体してもなお儲かるというところが素人にはわかりにくいのだが、そう言うことがあるらしい。しかしその儲けはすべてはげたかファンドが吸収してしまうので、本来一番守られるべきその会社の労働者の利益がまったく守られなくなるという。労働者は仕事を奪われ、資産の分け前も何ももらえないということになるらしい。 これは合法的な売買行為になるのだろうが、何か釈然としないものが残る。このように労働者を顧みないやり方は、資本主義の健全な発展を阻害するのではないか。モラルやマナーに反するのではないか。村上ファンドの問題は、このような問題とのつながりはないのだろうか。 村上氏は記者会見で、「金儲けは悪いことですか?」というようなことをいっていた。僕は、金儲けは悪くないと思う。真っ当な方法で金を儲けるのは資本主義の発展に寄与すると思う。問題は真っ当でない方法で金を儲けることだ。それが違法ではないとしても、真っ当ではないと思えるような方法で金を儲けることは、それを制限することが必要ではないかと思う。それをルールによって制限するか、個々の自覚であるモラルやマナーにまかせるかは難しいだろうが、何らかの制限は必要だろうと思う。そのような問題が今回の村上ファンドの問題にあるのではないかというのが、漠然とした釈然としない感覚だ。 モラルやマナーの問題は、健全な常識的判断が出来る、教養を持った第三者が判断しなければならないのではないかと思う。日本社会は、果たしてそのようなシステムを作りうるだろうか。権力を持った当事者がモラルやマナーの判断をしたら、それはご都合主義的な判断に流れてしまうだろう。本当の意味での第三者機関を作るには公共性を持った市民の感覚が必要だ。それが今日本社会でも問われているのではないだろうか。 学生時代にバスケットをやってきたという同僚に、トップクラスの試合では、いかにして反則ギリギリのプレイで相手にプレッシャーをかけるかという話を聞いたことがある。身体の流れが、不可抗力で相手に当たってしまったというふうに見えるように、ワザと相手にぶつかるテクニックなどがあるという話も聞いた。これらは、勝つことが第一目的であれば、戦術として合理的なものだと思う。 しかし、勝つことが第一目的でない場合は、ルールに違反してはいないがモラルやマナーに反するのではないかとも感じる。アマチュアスポーツでは、勝つことよりも、プレーヤ個人がそのスポーツを楽しむことの方が大切だと考えたら、このような戦術で勝ったとしても本当に楽しめるだろうかと疑問を感じる。勝つという目的は達成出来るかも知れないが、もっと大切なものを失うのではないだろうか。 かつて甲子園で、走者が一人もいないのに、当時星陵高校生だった松井秀喜が全打席敬遠されたことがあった。これは勝つための戦術としては正解だった。相手の高校は星陵に勝ったからだ。しかし、彼らはアマチュアスポーツとしての大切な何かを失ったように感じた。それほど勝つことが大事なことなんだろうか。 プロは勝つことが大事だといわれるが、プロにとって一番大事なのは「見せる」ことで勝つことではないと僕などは感じる。勝つためにせこい戦術を使うプロは結局は人気を失う。たとえ勝てなくても人々に感動を残すプレーをするプロはたくさんいる。そしてそのプロの方が、人々の人気も高い。これこそがプロとしての本質ではないかと思う。勝つことがプロの一番大事な要素ではないと思う。 モラルやマナーを考えるというのは、市民意識の第一歩でもあるような感じがする。モラルやマナーの問題をルールによって縛るというのは、市民としては恥ずかしいことなのではないかと思う。そんなものは、常識と教養で何とかすべきことなのではないかと思う。いろいろな出来事の、モラルやマナーの側面を考えてみたいものだと思う。
by ksyuumei
| 2006-06-08 10:28
| 雑文
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