大きな失敗をしたにもかかわらず、出直しの姿勢に暖かい言葉をかけてもらえて感謝の気持ちで一杯だが、その一つ一つの言葉に返事を返す余裕がまだ無いので、折に触れてそれらのコメントに触れることで返事にさせてもらうことをお許しいただきたい。
さてそのコメントの中でも非常に心にとまったのが、mojimojiさんの次の記述だ。 「「一方的な反批判停止」の中で、「つまり、行動面においては、僕は決してフェミニズム的な批判は受けないと思っている男だ。少しでも、抑圧的・封建的なところがあると指摘されて、その指摘が正しいものであればそれを改めるという柔軟性も持っていると僕は思っている」という部分、お気持ちはよく分かるのですが、これは僕自身の自戒もこめた仲間へのアドヴァイスとして申し上げるのですが、そのように言いたくなる心情こそが、私たちが警戒すべきものです。自分の中の気づかないところに抑圧的なプロトコルが仕組まれているだろう、ということを、方法論的前提として常に忘れないようにするのがよりよい対処法かなと思います。実際、自分の行動の中に抑圧的なものの欠片を発見し、肝を冷やすことは今でもしばしばあります。」 (「偏見が生まれてくる前段階について」のコメント…はてなダイアリー) このような記述に関して、以前の僕ならある種の反発を感じて読んでいたかも知れない。しかし、一つの失敗を経た今は、この言葉を冷静に受け止めて、その正しさを理解することが出来る。 以前の僕が反発を感じただろう解釈は、mojimojiさんが正しく表現している「方法論的前提」と言うことを読み落として、それをベタに前提として語っていると受け取るというものだ。 「自分の中の気づかないところに抑圧的なプロトコルが仕組まれているだろう」という指摘を、「存在が意識を決定する」という言い方を教条主義的に考えるのと同じように、差別する側にいる男は、前提として必ずフェミニズム的な差別意識を持っているのだという指摘としてそれを受け取っただろうと思う。 このような前提を正しい出発点として設定し疑わないのは、事実として証明されてもいないことを事実であるかのように設定して進める論理になるのではないかという反発を僕は感じたことだろう。しかしこの言葉を正しく理解するなら、それは男の差別意識をベタに設定して前提とするのではなく、それを見過ごしていないかどうか、方法論として意識せよという主張だと言うことが今なら分かる。 方法論をベタに受け取れば誤謬に陥るというのは、あちこちで例として僕も見てきたことだった。方法論というのは、フィクショナルな前提を設定する仮言命題的思考だ。それへの注意を強調してきた僕が、フェミニズムに関してはそれを方法論としては理解出来ていなかったというのは、やはり「構造的無知」に属するものだろう。それは偏見という曇りが晴れなければ理解が難しいことだった。 宮台真司氏は、フィージビリティ・スタディという思考の際に、あらゆる実現可能性を考えるという方法論において、日本人はそのような思考を方法論として意識することが困難だという指摘をしていた。旧日本軍の会議などで、日本軍が負けるという可能性を語った時点で、「貴様は神聖なる皇軍を侮辱するのか」と一喝されたという。 しかし、負けるかも知れない可能性を語るのは、実は負けないための条件を吟味するという、勝つと言うことの目的のための方法論なのだ。これが出来ないと、負けるかも知れない条件を見落として実際に本当に負けることになる。歴史はそれを証明しているのではないだろうか。 負けないという目的を達成するためにこそ、仮定の上では負けると言うことをフィクショナルに設定して考える、という思考法がフィージビリティ・スタディというものになる。方法論というのは、何のために行うかと言うことが意識されて初めて役に立つものになる。 mojimojiさんが提出した方法論も、その目的は、気づかないうちに自分が差別と偏見の中に落ち込んでいないかと言うことを避けることだ。この方法論を意識していないと、いつそのような間違いに陥るか分からないから気をつけなくてはいけないという、ある意味では誤謬論につながる方法論にもなっている。 「つまり、行動面においては、僕は決してフェミニズム的な批判は受けないと思っている男だ。少しでも、抑圧的・封建的なところがあると指摘されて、その指摘が正しいものであればそれを改めるという柔軟性も持っていると僕は思っている」という意識を、ナイーブにそのまま受け止めるのではなく、たとえ結論としてそうであるということが個々の場合に確認出来たとしても、それが確認出来るまでは、方法論としては、「自分の中の気づかないところに抑圧的なプロトコルが仕組まれているだろう」と言うことをフィクショナルな前提として設定して考えろと言うアドバイスなのだと言うことが今は理解出来る。 この方法論をベタに受け取ると、フィクショナルな前提としてではなく、それが事実の指摘のように感じられてしまうのだろう。これは、そう言われる方だけではなく、そのような言い方をする方にも方法論としての自覚が足りなくて失敗をすることが出てくるのではないだろうか。差別意識というものが確かに証明されてもいないのに、方法論的前提が常に事実として正しいものと錯覚すれば、男はみんなフェミニズム的な差別意識の持ち主だという極論が生じてきてしまうのではないかと思う。これをフェミニズムの責任に帰したのは僕の間違いだったが、そのような間違いに陥りそうな人が間違いを避ける方法を誤謬論として考えなければならないのではないかと思う。 差別反対の行動の時には、それが不当な糾弾につながるという実際の間違いにつながったと思う。差別意識の問題も、自分への戒めとして、方法論的前提として「存在が意識を決定する」と言うことを仮定として、差別意識を持たないためにこそその前提を設定するという意識が必要だと思う。しかし、その前提を事実として正しいものとしてしまい、そこから差別意識の存在を帰結するようなら論理的な間違いになるのではないかと思う。 方法論としてのフィクショナルな前提は、デカルトが提唱した「方法論的懐疑」というものを思い出す。デカルトの懐疑は、真理に到達するために疑うという方法論としての懐疑だった。しかし、それをベタに受け取ると、世の中のすべての現象は疑いうるのだから、何一つ確かなものは無いのだとする「懐疑論」に陥ってしまう。 このことからもたらされる間違った結論は、科学といえども完全に確かなことが言えるわけではないので、常に不完全であり、科学も一つの仮説に過ぎないのだという、科学を仮説に解消してしまうような発想だ。このような「懐疑論」は、僕にとっては科学への冒涜のようにも見えたので、怒りすら感じるようなものだった。 しかし、デカルトの「方法論的懐疑」はあまりにも有名で、それを「懐疑論」として間違えるのは、間違えた方が悪いということはすぐに分かる。「懐疑論」の間違いは、デカルトが「方法論的懐疑」などということを提唱したからだと、的はずれな考えを持つことはない。 実際には、科学というのは、現実への適用の条件さえ正しく捉えていれば100%確実な知識を与えてくれるものになっている。仮説のように、適用して結果を見てみなければそれが正しいかどうか判断出来ないと言うものではないのである。科学が確実な知識でなければロケットをとばすなどという危険は冒すことが出来ないであろう。ロケットを飛ばしてみなければ、どこに行くかは分かりませんという仮説しかなかったら、危なくてロケットなど飛ばすことは出来ない。 方法論というのは、現実の物事をベタに受け取るのではなく、一度フィクショナルな前提を通して見てみることになる。このフィクショナルな前提そのものに感情的な反発があるときは、この方法論を自分のものにするのは難しい。旧日本軍が、自らの敗北の可能性を前提として、方法論的に考えることが出来なかったように、自分が信じている事柄と反対の仮定を設定することは難しい。 しかしmojimojiさんが正しく指摘するように「そのように言いたくなる心情こそが、私たちが警戒すべきものです」という指摘が正しいのだろうと思う。この心情を乗り越えて、冷静に論理的に、方法論としての前提を設定出来るかどうかも、誤謬論として重要なことではないのかと思った。mojimojiさんの貴重な指摘をありがたいものとして感謝して受け取りたい。
by ksyuumei
| 2006-05-26 09:00
| 雑文
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