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論理トレーニング1 順接の論理

野矢さんの『論理トレーニング』のメモを残していこう。まずは第1章の「順接の論理」だ。これは

<議論の流れが変わらない場合の接続構造一般を表す。>

と定義されている。つまり、ある主張がなされたとき、その主張を受けたり展開したりする流れを作ると言うことだ。この論理の流れに対して、接続詞というものが大きな働きをしている。適切な接続詞が使えるようになることが、日本語において論理が使えることになると言える。

順接の論理は、大きく分けて4つのパターンに分かれる。

(1)付加(記号:A+B)
   接続詞「そして」「しかも」「むしろ」
(2)解説(記号:A=B)
   接続詞「すなわち」「つまり」「言い換えれば」「要約すると」
(3)論証(記号:A→B)
   接続詞「なぜなら」「それゆえ」「したがって」「だから」「つまり」「~ので」「~から」
(4)例示(記号:A-例B)
   接続詞「たとえば」




詳しい考察をすると次のようなものになる。主題となる主張を、「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」というものにして、それぞれの接続詞を利用して、その論理の構造を考察してみる。

(1)
付加というのは、主張に付け加えて説明をすることを意味する。これは付加であるから、新たに主題を立てるのでもなく、また一から説明をするのでもなく、主張していることの一部をより詳しく言ったりして付け加えることを意味する。

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「そして」
 「同時に、意欲を減退させる邪魔になるものを排除しなければならない。」
(意欲を高める方向と反対の方向の考察を付け加えている。)

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「しかも」
 「その意欲が与えられたという受動的なものでなく、自ら主体的に高まってきたものとして動機付けをしなければならない。」
(動機付けの内容を細かく掘り下げてより詳しく説明する方向で、内容を付け加えている。)

「むしろ」は、肯定的な主張につなげるのは適切な使い方でない。そのあとに続くことが肯定されるので、否定的な前提を置いて、その意味(否定の内容)に付け加えて肯定出来ることを対置するという論理展開になる。否定的なことを主張したいときに使うと便利だ。

 「受験勉強においては、学習に対する動機を高める必要はない。」
  「むしろ」
 「いかに効率よく暗記出来るかが、受験を乗り切るテクニックとして有効である。」
(必要がない、と言うことの内容に対して、より積極的に暗記するという内容を対置して付け加えている。)

(2)
解説は、同じ内容を繰り返すことになる。そして、よりわかりやすい説明に言い換えたり、違う方向から眺めて、多面的な理解を図ったりする。具体例を使ってわかりやすくしようとすると(4)の例示と同じものになる。

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「すなわち」
 「学習者の興味・関心の強いものから学習をさせるようにしなければならない。」
(「意欲を高める動機付け」というものがどういうものであるかを、一般論として他の言葉で語っている。)

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「つまり」
 「学習者が面白いと感じるような目新しい内容を持ったものを提供しなければならない。」
(これも「意欲を高める動機付け」の内容を別の言葉で語ったものだが、これは例示に近いものだろう。)

主張がもっと難しいものである場合には、「言い換えると」「要約すれば」という接続詞がふさわしいときが出てくるだろう。

(3)
論証の場合は、主張の根拠となるものがハッキリしているときに、その根拠を指し示して論証の形を取るだろう。この場合は、単に言い換えたり説明したりしているのではなく、その根拠から導かれているのだという構造が必要だ。

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「なぜなら」
 「意欲のない練習は、それを繰り返したとしても習熟ということが期待出来ず、成果が上がらないからだ。」
(習熟をしないと言うことから、成果が上がらないということが導かれている。)

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「それゆえ」
 「学習者の興味・関心の方向がどこに向いているかをよく知らなければならない。」
(意欲を高めることは、興味・関心のあるものを提供することによって得られると、論理的に関連づけられている。)

(4)
例示は、具体例を提示することによってなされる。どの程度の具体性かというのは、解釈によって千差万別だと思われる。

 「学習の成果を上げるには、意欲を高める動機付けをしなければならない。」
  「たとえば」
 「トランプを使って正負の数を学習するのは、そのゲーム的な面白さが強い関心を引いて、学習そのものに対する動機も高めてくれるので、ほとんどの子供たちが足し算と引き算が出来るようになる。」
(トランプゲームという具体例が、「意欲を高める動機付け」という一般論の具体例になっている。)


実際には、論理の流れはこのようにきっちりと区別出来るものではない。説明と論証の区別が難しいものもあるのではないかと思う。また、説明を語る筆者にとっては、論理的に自明なことであっても、そのような基礎知識がない人間にとっては、論証が理解出来ず、説明的なものとして論理の流れを受け取る場合もあるだろう。

これらのことは、日常言語を用いた論理になるので、形式論理ほどきっちりと決定出来ることは少ないと思われる。しかし、このような区別を意識して、順接の論理を読みとっていけば、そこで語られている論理の流れを理解するのに助けになるだろう。かつて、記号論理を使えば、ほとんどすべての数学が理解出来ると感じたように、この、野矢さんの論理トレーニングで訓練すると、日常言語で語られた論証的な文章を理解するのに役立つだろうと思われる。

論理の流れは順接ばかりではないので、他の流れもテクニックとして訓練する必要があるが、まずは順接の論理を、自分なりに飲み込むことにしよう。接続詞に気をつけて、これを大きく4つに分類することを意識して文章を読んでいこうと思う。もちろん、自分が文章を書く際にも、この4つを今以上に意識して、文章を書くようにしよう。
by ksyuumei | 2006-02-24 23:25 | 論理


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