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「北朝鮮」のミサイル発射を論理的に理解してみる 2

「北朝鮮」のミサイル発射に関しては、それが何らかの利益をねらったものだという前提で考えなければ合理的な理解は出来ないと言うことは、誰もが認めることではないかと思う。問題は、それが利益になると「北朝鮮」に判断された理由の方を知ることだ。

中山・元内閣官房参与の言葉にある「悪い事をやめる代わりに何か下さい」というような意図というのは、一つの解釈だが、これはあまりにも単純に考えすぎているような気がするというのが前回の考察だった。これは脅しをかければ効果があるという判断に基づいて、何らかの利益がもたらされるだろうと考えていることになる。

これは、あまりにも軍事超大国アメリカを見くびっているのではないだろうか。どこの国よりも強い軍隊を持っているアメリカが脅しに屈すると考えるのは、頭の悪い判断ではないのだろうか。「北朝鮮」はそう言う頭の悪い人間が支配しているのだという判断をしたい人もいるかも知れないが、あくまでも合理的な考えで行動をしているという前提で考えてみたいと思う。



田中さんの「北朝鮮:金正日のしたたかな外交 2000年6月26日」というレポートでは、労働者にストライキをさせるという、巧妙な方法でアメリカを困らせることで利益を引き出そうとしていた。単にごねるだけではなく、相手が反論をしにくい行為を引き起こすことによって、国力としては遙かに弱い国であるのに、大国のアメリカと同等以上の交渉をすることが出来ていた。このような見通しが、今回のミサイル発射にも「北朝鮮」の側にあったとは考えられないだろうか。

田中さんは、「北朝鮮ミサイル危機で見えたもの 2006年7月4日」というレポートで、「北朝鮮」がアメリカをどう捉えているかと言うことを語っている。これを読むと、「北朝鮮」はアメリカを単純に脅しに屈する相手だとは考えていなかったように感じる。その複雑な国際背景を利用して、アメリカを交渉の場に引き出すことが「北朝鮮」の目的であり、そのためにミサイル発射という行為を利用していたのではないかということが考えられる。

ミサイル発射などという行為は、普通は軍事行為であり、いっぺんに戦争の緊張が高まる。表面的に見れば、「北朝鮮」は戦争をしたいのかと思われてしまう。しかし、いろいろな事実をつなぎ合わせてみると、軍事行為ではないと思わせようとしていることも感じられる。田中さんは6月のミサイル危機に関しては、次のように書いている。


「ところが実際には、発射実験は行われなかった。どうやら北朝鮮政府は、本当に注入しているかどうかは上空からは分からないことを利用して、人工衛星から見えるように燃料タンクを置きつつ実際には注入しなかったり、自国のマスコミで重要発表を予告したりして、アメリカなどの外国に対し、ミサイル発射の芝居を打ったようである。」


本当に戦争になれば、「北朝鮮」の国力では簡単にアメリカにやられてしまうだろう。イラクのように潰されてしまうに違いない。周りの国に犠牲は出すだろうが、「北朝鮮」が戦争に勝利するという可能性はゼロに近いというのが現状だろう。そのような状態で戦争につながるような挑発をするということは、頭の悪い自殺行為だと言えるだろう。

だから、この時点では、このような行為をしても戦争にはならないという計算も働いていたのではないかと思う。むしろ、何をしているのか分からないという疑惑を相手に起こさせることが目的だったのではないかと感じる。「芝居を打った」というふうに見えることが、そのような戦術を感じさせる。

これが本当に芝居であれば、アメリカの側はそんなものは無視して放っておけばいいと言うことになる。「北朝鮮」にはそれ以上の手は打てないのだから、それほどの心配はない。むしろ、芝居以上のことをすればどうなるか分かっているのか、と恫喝することも出来る。

これが、芝居ではなく、本当にその気があるのではないかと相手に思わせることが出来たら、何とかその意図を確かめようとアメリカが交渉に乗り出してくるかも知れない。それこそが「北朝鮮」の本当のねらいだったと考えることが出来るのではないだろうか。

「北朝鮮」がこのような意図を持っているのではないかということを考えさせるのは、田中さんの次の言葉からだ。


「北朝鮮は、なぜミサイル発射の芝居を打ったのか。日程的なタイミングから考えると、その理由は「アメリカに直接交渉を断られたから」である。北朝鮮をめぐる6カ国協議は中国や韓国が主導だが、北朝鮮は中韓との交渉には積極的でない。北朝鮮は「世界一強いアメリカから国家の存続を認められれば、他の国々など怖くない」と考えて、アメリカとの2国間交渉の成立を最重要課題にしてきた。」


この命題が「事実」であるなら、「北朝鮮」の芝居を打つという行為に合理的な説明がつくだろう。だがこの時のミサイル危機の芝居は、どうやら結果的にはアメリカはまったくそれに挑発されずに、単なる芝居だと見抜いていたようだ。「北朝鮮」の戦術は失敗したといっていいだろう。この失敗が、今回の本当のミサイル発射につながったのではないかと思われる。もはや芝居では通用しないから、今度は本当に発射してみたという感じだろうか。

だが本当に発射するのは、芝居を打って脅すのとはわけが違う。一歩間違えれば本当の戦争になりかねない。そして、本当の戦争になれば「北朝鮮」の方が大きな痛手を被るのは分かり切っている。そのような危ない橋を渡る決断をさせたものは何なのだろうか。そこまで「北朝鮮」が追いつめられていると状況を判断した方がいいのだろうか。それとも、あえて危ない挑発をしたとしても戦争という事態は避けられるという見通しを持っていたのだろうか。

「北朝鮮」がどちらの意図を持っていたのかを知るのは重要なことではないかと思う。また、客観的情勢として、最悪の事態をどの国も避ける方向へ向かうという見通しがあれば、敵対的な対立へ向かう強行的な態度は成功しないという予測も成り立つ。今回のミサイル発射に関しては、日本だけがかなり強硬な態度を押し通しているように見えるが、他の国はそれに乗ってこないようだ。このような状況は、ミサイル発射をする以前で見通すことが出来たのかどうか、それを考えてみたい。

今の状況、「北朝鮮」に対する制裁という強い態度があまり支持されていないと言う、国際状況がミサイル発射の時点で予測されていたとしたら、「北朝鮮」はやはり頭がいいのではないかと感じる。運良く流れがその方向へ向かっているのか、外交戦略によって自国に有利に展開させているのか、そのあたりのことを合理的に理解したいものだ。

とりあえず命題として可能性を語っている「事態」というものをいくつか想像してみようと思う。このうち現実化している「事実」が果たしてあるものかどうか。それを判断出来る材料がないか探してみようかと思う。次のような命題が頭に浮かんできた。

・ 「北朝鮮」のミサイル発射は、事前にどの国もよく知っていた。
・ 知っていたにもかかわらずあえてそれをしたのは、ある意味で承認されるという見通しがあったからだ。
・ その承認は、それが何らかの利用価値があると判断したからだ。
・ アメリカにとっては、ミサイル防衛構想に利用出来る。
・ 日本にとっても、防衛力増強の方向に利用出来る。
・ 中国や韓国にとっては、戦争の事態は絶対に避けなければならないものである。
・ 中国や韓国は、戦争になればその被害が直接及び、しかも甚大なものになる。
・ 今や世界の経済を支える存在にまでなっている中国や韓国に被害が出ることは、欧米の先進国も望まない。
・ 日本が強硬な態度に出ることは諸外国の支持を得られない。
・ 日本の強硬な態度は、かつての軍事国家の頃を思い出させることが問題になる。
・ 日本は、ドイツと違ってアジア諸国に対して戦争の反省についての信用がない。
・ 「北朝鮮」の脅威は大した現実性がないが、日本が軍事大国化する方が、アジア諸国にとっては現実的な脅威となる。
・ アメリカは今や中国やロシアの意向を無視することが出来なくなっている。

このほかにもまだいろいろな命題が頭の中を錯綜しているが、このような命題を手がかりにしていろいろなデータを眺めてみようかと思う。
by ksyuumei | 2006-07-14 10:23 | 雑文


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