ライブドア問題再考 4

さて山根さんの、「ホリエモンの錬金術 -5 」を読むと、昨年の4月に書かれたものであるのに、現在の姿を示唆する文章になっているのに驚く。仮説実験授業的に言えば、正しい仮説に基づいて予想したことが、現実の事実によって、その仮説の正しさが証明されたという感じがするくらいだ。抜き書きしてみると、次のような文章に、現在の姿を予想するものを見ることが出来る。


「ライブドアという会社は、所詮、自浄作用を失った株式市場が生み出した“あだ花”であり、幻の存在であると知るべきです。」

「私が先に提示した3つのうちのどれ一つであろうとも、事実であることが確認されるならば、上場基準に抵触するおそれがあるからです。」



「私は、証取法とか上場基準に抵触するおそれのある3つの事実を、証取法の規定に従って正式に提出された有報等の分析を行ない、既にその概要を説明いたしました。次回以降、詳細な説明に移ります。東証は審査能力と自浄能力とをどこかに置き忘れているようですが、証券取引等監視委員会は、どのように対応するのでしょうか。」

「仮に、私が提示した3つのポイントがしかるべき機関でそのうちの1つでも事実として確認され、ライブドアの上場適格性に問題ありとされるならば、ライブドアの上場廃止が現実問題として検討されるに至るでしょう。
 もっとも、ライブドアはその前に資金繰りの面で深刻な事態に直面する可能性があります。会社の手許流動性は、現在相当以上に悪くなっているはずで、外部からの新たな資金の手当ができなければ、今までの矛盾が一気に吹き出してくるでしょう。
 いずれにせよ、ほどなくホリエモン・マジックは崩壊をはじめ、マネーゲームのから騒ぎは終結に向かうことでしょう。」


ここで語られていることは、驚くほど現在の状況に合致する。しかし、これは、現在そのような現象が現れたので誰の目にも明らかになったことだ。山根さんがこれを書いた当時は、これがぴったり当たると感じられた人は少なかったのではないだろうか。何しろ、山根さんがこれを書いた当時は、「現在のライブドアの企業価値は2,000億円だ」と言われていたそうだが、ライブドア事件の直前では、これが8000億円になっていたそうだから、山根さんの忠告を信じない人がたくさんいたと言うことなのだろう。

しかし、この時点では、山根さんほどの専門家でなければこのような結論を出すのが難しかったのではないかとも思える。上に書かれた文章は、いずれも分析の結論を語ったものばかりで、分析の過程を理解しなければ本当には信じることが出来ない。しかし、その過程の理解はかなり難しさを感じるものだ。

専門家でない素人が、結果としての事実が明らかになる前に、「当たらずといえども遠からず」という結論を予想することは出来ないだろうか。もし、それが出来れば、危ないところに近づかないというリスク回避が出来るようになるのではないか。

素人には細かい計算が分からないから、山根さんほどの確信を持ってライブドアを評価することは出来ないだろうが、うさんくさい匂いを嗅ぎ取って、表に現れた現象からこれは慎重に考えた方が良さそうだと警戒する気持ちを持つことが出来るようにならないだろうか。

山根さんの文章には、そのためのキーワードがいくつか見つけられるように感じる。それは次のような言葉だ。


  「自浄作用を失った株式市場」
  「ライブドアの力の源泉」


違法すれすれの行為・あるいは違法ではあるけれども見逃されているような行為、そのようなものが見られたときは「自浄作用を失った株式市場」があると言えるだろう。それは、何もライブドアだけに限らず、証券市場を舞台にした事件を調べてみるといくつか見つかる。

マル激のゲストで出ていた上村達男さんの『会社法改革』(岩波書店)を見ると、ルール不在の証券市場という話の中で、次のような歴史的事実を指摘している。


「まず証券市場についていえば、インサイダー取引、飛ばし、損失補填、風説の流布と言ったことは、一般にかなり行われていたが、アンフェアとは思っていても違法(illegal)とは思ってこなかった。しかし一つずつ違法だと教えられてきた。飛ばしの原因でもある決算のお化粧は、ドレッシングと言われアンフェアとは思っても違法とは見ていなかった。これも違法視されつつある。従ってこれを容認してきた公認会計士監査も責任追及の対象となりつつある。エンロン・ワールドコム事件は、会計の操作が証券市場に対する犯罪であることを明らかにしている。建設談合もかつては必要悪とされていたが、独禁法違反行為であることを思い知らされている。」(36ページ)


証券市場に自浄作用がなければ、アンフェアなことが行われる危険があると警戒しなければならないだろうと思う。上村さんは、「極端にいえば経済成長過程は今の視点で見れば、法的には違法行為だらけだったのである」とも語っている。それは、その時点の日本の商習慣ではまだ違法にはなっていなかったかも知れないが、基本的にアンフェアだということを抑えなければならないだろう。アンフェアが違法として淘汰されなければ、自浄作用があるとは言えないからだ。

ライブドアは、このようなアンフェアを自覚していたのだろうが、まだ違法ではないという判断から数々の細工をしたのではないかと感じる。しかし、結果的にライブドアの行為が、アンフェアを違法とするようなきっかけになるのではないかと思う。そうすれば、証券市場にも自浄作用が生まれてくるのではないだろうか。

山根さんは、「ライブドアの力の源泉」を次のようなものに見ている。


「ライブドアが上場をしていること、この事実こそ、ライブドアの力の源泉であり、ホリエモンの魔力の源泉なのです。」


証券市場に自浄作用が無いにもかかわらず、人々がライブドアのようにうさんくさい企業を信じてしまうのは、「上場」という事実のせいであり、「上場」をすると言うことが、それだけ重いことなのだということを考えなければならない。自浄作用がない間は、上場されていてもそれを素朴に信じてはいけない、と言う警戒心を持たなければならないということを、山根さんは次のような事実と共に語っている。


「最近名証セントレックスに新規上場された(株)エフェクター細胞研究所の例が示すように、決して東証における過去の問題ではなく、その他の証券取引所でも規制緩和を背景にして、ベンチャー支援の名のもとに怪しげな会社が次から次へと上場されているのですから、まさに現在進行中の問題なのです。」


素人は細かい事実を確認するのは難しい。しかし、大きな幹となるような根本矛盾は、それが根本であるのならさまざまなところに現象してくる。ある現象が、特別に現れてきた例外なのか、それとも一般的にどこにでも見られることなのか、ということを考えて、根本に矛盾があるかどうかの判断で、素人も「当たらずといえども遠からず」という判断が出来るのではないだろうか。

かつて戦争中に、情報と言えば大本営発表しかなかったにもかかわらず、三浦つとむさんは、この戦争は無理をしているのでやがては日本の敗戦で終わるだろうと予想していた。それは、いつ終わるかというような細かいところは分からないが、全体の構造としては、勝てるという判断が出来そうにないので、いつかは敗戦で終わると予想出来たのだろうと思う。そのために、三浦さんは敗戦になっても少しもショックはなく、むしろそれで本来の活動が出来るようになると喜んだらしい。

三浦さんの判断の源泉は、自らの日常生活がだんだんと悪くなっていくという感覚が大きいものだったようだ。日本が勝利を続けているのなら、どんどん生活が悪くなっていくということとの整合性があまり取れない。しかも東京は空襲でやられているし。その上、軍に関係する人間たちの腐敗のひどさも、戦争遂行のデタラメさを象徴しているように見えただろう。大本営発表の情報操作があっても、根本矛盾に目を向けるという視点があれば、そこから「当たらずといえども遠からず」という判断が出来るのだと思う。

山根さんがこの文章を発表したときに、多くの人が山根さんの先見の明を理解していたなら大きな失敗を免れただろう。しかし、先見の明を評価するのは難しい。特に、世間の常識に反する先見の明を評価するのは難しい。だが、大きな失敗を経験すれば、この次は同じような失敗をしないようにしなければならない。証券市場の自浄作用こそが大事なことで、その根本が達成されていないうちは、上場されているというだけではその企業を信じないという疑いの目を持っていなければならないだろうと思う。素人は、そのような警戒心を持たなければ危険に引っかかるだろう。
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by ksyuumei | 2006-02-03 09:21 | 社会


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